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白石一文『この世の全部を敵に回して』

bookさ行

攻撃的なタイトルに惹かれて購入。普通の小説と思って読み始めたら入れ子構造の文章になっていて不思議な味わい。生と死について延々と語られていて大好物すぎました。思いがけずに素敵な文章、思想に触れることが出来て幸せです。死あっての生というものとか、私を私たらしめているものはなんなのか、とか、この世界のシステム、責任能力のない殺人犯は何故無罪になるか、等々とても興味深く読んだ。

生きる意味、生まれる意味とはなんなのか。という問いに対して癌細胞と似たようなものであると云って、癌細胞は宿主の人間にとってはなんの意味もない存在だが、人間という生命体が間引かれることで他に利益を得るなにものかがこの地球というシステムの中にいるのでは、というところが面白かった。

私たちにとって「死」は唯一の絶対である。「生」は決して死を凌ぐものではない。生はかりそめのものである。死んでいない状態を「生」と呼びならわすだけだ。死がなければ生もない。その点については「不死」を考えることであなたも充分に理解したと思う。不死の世界には「私」がない。私のない世界に、私たちの生は存在し得ないのだ。死の絶対性はそこにある。死は不死によって覆すことのできない真実なのである。

死も不死も恐ろしく、死に対する希望が不死であり、不死に対する希望が死であるのならば、私たちにとっての「死」とは恐怖でもなく希望でもないものにすぎない。「死」は単なる「死」でしかなく、それ以上でもそれ以下でもないのである。

ここらへんの文章がすっと入ってきた。白石さんの著書を他にも読んでみたいと思う。

この世の全部を敵に回して (小学館文庫)

この世の全部を敵に回して (小学館文庫)