芥川龍之介『芥川龍之介全集1』

芥川龍之介全集〈1〉 (ちくま文庫)

芥川龍之介全集〈1〉 (ちくま文庫)

表紙が何とも云えないのですがボックスで買ってみました。本当は12巻揃いのでっかい版のやつを買いたかったのですが古書店でも中々全巻揃いが見付からず一時妥協という。見付け次第そちらも買うと思います。でも芥川関連で一番欲しいのは芥川龍之介研究資料集成だったりします。大好き過ぎてだね。そりゃお墓参りにもいきますわw

羅生門」は勿論のこと「煙草と悪魔」も大好きな作品。でも久々に読んだ「偸盗」がすごく良くてぞくぞくしっぱなしでした。

するとたちまちまた、彼の唇を衝いて、なつかしい語が、溢れて来た。「弟」である。肉身の、忘れることの出来ない「弟」である。太郎は、堅く手綱を握ったまま、血相を変えて歯噛みをした。この語の前には、一切の分別が眼底を払って、消えてしまう。弟か沙金かの、選択を強いられた訳ではない。直下にこの語が電光の如く彼の心を打ったのである。彼は空も見なかった。路も見なかった。月は猶更眼にはいらなかった。ただ見たのは、限りない夜である。夜に似た愛憎の深みである。太郎は、狂気の如く、弟の名を口外に投げると、身をのけざまに翻して、片手の手綱を、ぐいと引いた。見る見る、馬の頭が、向きを変える。と、また雪のような泡が、栗毛の口に溢れて、蹄は、砕けよとばかり、大地を打った。―一瞬の後、太郎は惨として暗くなった顔に、隻眼を火の如くかがやかせながら、再び、元来た方へまっしぐらに汗馬を跳らせたのである。

ここの前後の文章が美しくて美しくてこの何頁かでご飯、何杯かいけますw

ゆっくり楽しめるときに二巻も読もうと思います。