肝臓先生

肝臓先生 (角川文庫)

肝臓先生 (角川文庫)

本年一冊目。
坂口安吾ではじまる一年って…駄目な匂いがしますね(笑)
とはいえ、矢張り面白いのです。

「私は海を抱きしめていたい」で女と海辺を歩いている場面で

私はふと、大きな、身の丈の何倍もある波が起って、やにわに女の姿が呑みこまれ、消えてしまったのを見た。私はその瞬間、やにわに起った波が海をかくし、空の半分をかくしたような、暗い、大きなうねりを見た。私は思わず、心に叫びをあげた。


それは私の一瞬の幻覚だった。空はもう、はれていた。女はまだ波のひくまを潜って、駈け廻っている。私は然しその一瞬の幻覚のあまりの美しさに、さめやらぬ思いであった。

っていうところが、なんともいえず好きです。日常に非日常を思い抱くというか。


あと、「ジロリの女」が一番長い情愛のお話なのですが、

〜私はわが愛人と遊びたい。愛とは遊ぶことです。その代わり踏みつけられてもよろしい。踏まれるためには、やわらかな靴となって差上げたいとすら思うものです。恋の下僕にとって、愛人は常に自由の筈であり、ほかに何をしようと、恋人をつくろうと、私は目をつぶっていなければならない筈です。私はヤキモチはキライです。自分にとっても、これは不快な感情ですよ。そのくせ、やっぱり、やくんです。これは本能というヤツで、まったく、なさけない次第です」

ま、たいていずっとこんな感じでもう面白いったらないのです。好きだぁ安吾


表題作の「肝臓先生」も楽しく読みましたが、それとは全く関係のない文章で詩と散文のことを書いているところがあって

散文を書きなれた私には、圧縮された微妙な語感はすでに無縁で、語にとらわれると、物自体を失う。物自体に即することが散文の本質で、語に焦点をおくことを本質的に嫌わねばならないのである。

というところに感銘を受けている次第。


今年はまだ読んでいない安吾にたくさん出会えますように!